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破戒 (新潮文庫)

島崎 藤村
おすすめ度:★★★★★
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人間存在の宿命を論ず
おすすめ度 ★★★★★

 すべての生は寓意に帰する。

 藤村によって達成された告白文学の頂点。この小説を現在なお続く同和問題と結びつけて
しまっては、悲しいかな、その本質は何一つ理解されることがない。

 人にはどうにも抗うことのできぬ宿命がある、先天的にせよ、後天的にせよ。あるいは人は
運命を変えることはできるかもしれない、しかし、宿命を変えることはできない。担う宿命
こそ違え、この一点において人はみな等しい。その悲しい屈服を論じた一冊。

「生まれてすみません」
 太宰のけだるきナルシシズムにこのことばは似合わぬ、藤村の告白にこそふさわしい。
 部落如何にかかわらず、すべての生に象徴的な作品。



藤村の真摯な姿勢に脱帽
おすすめ度 ★★★★☆

部落出身の教員丑松を巡り、その出自を隠蔽する忍耐の生活、盟友の死をキッカケに出自を告白する勇断、そしてその結果による社会からの追放を描いて、差別が存在する社会への糾弾を行なった勇気ある告発書。

本書で扱われる差別問題は現在でも存在する。しかし、明治時代には恐らく今よりもタブー視されていた(あるいは意図的に無視されていた)問題を正面から扱った藤村の真摯な姿勢には感嘆する。丑松が告白を止められたように、藤村も本作の発表を周りから止められたのではないか。結末で、丑松が海外へ旅立つという設定は、当時としては他に選択肢のない止むを得ないものだったのでないか。安易に話を収束させるより現実味があると共に、差別のない国への旅立ちと言う夢を丑松と読者に与えていると思う。

現在でも出自による差別の他、国籍による差別など色々な謂れの無い差別問題が存在する。そうした問題に目を背けずに対処して行くためにも、藤村が遺した本書のような貴重な告発が重要な意味を持っていると思う。



力強く、生きる
おすすめ度 ★★★★★

 自然主義文学、と言えば、人間の醜い面までをそのままに描くと言う印象が強いです。僕もまた、そう思っていました。露骨な描写で、泥沼化しているとばかり考えていました。しかし、この作品はそういったイメージとは無縁な様です。
 作品全体に部落の差別問題が絡んできます。学校の教師である主人公は部落の出身。父親に絶対に自分の身の上を明らかにしてはいけない、という戒めを堅く守って生きていました。しかし、そのために同じ出身でありながら、自分の身の回りで部落出身者が虐げられているのを見ても、社会の流れに逆らえず、助けることも出来ません。
 同じ場所、同じところで、自分はまるで部落出身者でないような顔をしている。なぜ部落の出だからと言う理由で、そういった目に遭わなければならないのか?
 そういった感に主人公は悩まされ続けます。
 そして対照的な生活を送る部落出身者、猪子蓮太郎。自らを部落出身者として世間に恥じることなく、赤裸になって活動する壮士。生い立ちを恥じずに生き、問題を解決しようと必死な彼の姿に、主人公は心動かされます。
 最終的に、主人公は、自らを部落出身者だと、生徒に打ち明け、海外に旅立ちます。ここで、てっきり主人公の事を軽蔑するかと見えた生徒達が、主人公を部落出身者であっても、世話になった先生として慕い続ける姿勢にとても感動しました。
 けっして泥沼でなく、感動させられるストーリーだと言えるでしょう。
 他にも、貧困にあえぐ、家族や思いを寄せる女性、金のために動く弁士など様々な伏線があり、非常に物語性の強い作品になっています。
 自然主義だから、と敬遠せずに読んで頂きたいです。



差別と区別は違うのか
おすすめ度 ★★★★★

 今もなお色濃く存在する差別問題。確かに私の周囲でも部落にかかわる噂話があります。「公的な仕事は部落出身者が有利」だの「県営住宅は部落者優遇」など。何の根拠があってか私にはわかりません。単なる言いがかりとしか思えませんが。

 私は「人類みな平等」と学校教育では教わりました。道徳の授業で人が人として扱われなかった悲しい歴史を学びました。ですが、一歩学校の外ではそうではないようです。主観による偏見によって人は公平な判断がされません。より具体的な例はここでは書けませんが・・・(大勢の眼に触れますので。すみません)

 人を区別することと差別することは似ているようで違うのでしょうか?社会の秩序のためにはあいまいな概念‘平等’という看板を掲げていれば事足りるのでしょうか?私には解りません。
それとも傍観こそが生活レベルで有効なのでしょうか・・・

 私が世間知らずのお利口さんなのでしょうか。教科書レベルの解釈の範囲を超えた思考ができません・・・



なぜ、主人公はテキサスに旅立ったのか
おすすめ度 ★★★★☆

 この小説は、過去に存在していた部落差別を極めて生き生きとした形で読者に提示し
ており、当時行われていたこうした差別に深い憤りを感じずに読むことはできないと思
います。少なくとも過去にこのような問題があったことを私たちはきちんと知っておく
ことが重要だと思いました。(自分は「朝まで生テレビ」で被差別部落問題を扱った回
を見るまで、こうした問題が今もなお存在しているのだということ全然知りませんでし
た。)

 ただ、この小説を読んで、自分には、何か釈然としない、どうとらえてよいかわから
ない部分も残りました。

 主人公は、部落の出身であることを告白するとき、教え子の生徒たちに向かって土下
座して謝ります。そして、最後はテキサスに旅立ちます。

 もしこうした場面が、部落の出身であろうが、人を生まれながらに差別することがお
かしいということを毅然として堂々と訴え、最後、日本社会の中で理不尽な差別と闘っ
ていくという内容であれば、その結果がどうであれすっきりとした読後感だったと思い
ます。でも、この小説の主人公は、なんとなく、闘うことではなくそっと身を引くこと
を選んだように思えました。

 藤村が、被差別部落という問題を人間心理描写の単なる背景として使ったのか、当時
の時代背景を考えればこの内容でも差別に対する画期的な告発であったのか、真正面か
ら抵抗することすら不可能なことを描くことでかえってこの問題の根深さを表現してい
るのか、ちょっとよくわからない微妙な感じを受けました。

 いずれにしても、こうした残酷な時代と歴史があったことを知らない人には、読む価
値は十分にあると思いますし、主人公をテキサスに旅立たせることにした藤村の意図な
どについても、まずはこの作品を読んでそれぞれが考えてみるとよいのではないでしょ
うか。


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