利権なき時代の本物の苦労おすすめ度
★★★★★
この作品は、不思議なことにスリルが有る。
俳優さんや監督さんの技術が優れているという事もあるが、
内容が差別問題であるという事がその要因だと思います。
被差別者であったが為に傷心し悩む主人公の、小学校教師。
しかし、そんな事とはいざ知らず無邪気な子供達の顔をみると、
とても打ち明けられないでいる。これは心の葛藤という単純な物ではなく
同じ人間でありながら同じ日本人でありながら、区別される自分が
現実に存在し、それを隠さなければ現在の自分が壊れるという恐怖。
そう、これは単純に恐怖と言って過言とはならないだろう。
結果、最後にその恐怖を取り除いてくれたのは、他でもない
自分の教え子達。そう、小学生なのである。何が破戒だ!
あの子達の純粋な笑顔と綺麗な正しい心を見よ!
そう、被差別者出身の彼は、他の何者でもなく、
生徒達にとっては、まさに真面目で正しい先生でしかなかったのだ。
人生の修行で苦行を好む人間でも最後には至福を受け取る権利があるのだ。
不当な身分制度で、子孫の人間の価値をを区別するのではなく、
平和と平等の名の下に、悪の人格や悪の素行を区別するべきなのだ。
最後の方で、この主人公の教師が小学生の生徒達に頭を下げ、
「実は私は、部落民でした、いままで黙って教師をしていてすいませんでした。」
と泣きながら言うシーンがある。しかも職場である教室の教壇で・・・・。
素晴らしいプロ根性である。 この時私は侍魂を見た気分だった。
人柱となったこの人達がいるおかげで今の日本が存在するのだろう。
この物語の詳細は実話ではないが、
おそらく同じような事が実際に起こっているはず。
人によっては逃げ隠れしたりしてしまうだろう。
しかし人柱となり火の付いた屋根を支えた柱は、
たとえ家が全て焼けたとしても、その魂は永遠に不滅である。
そして忘れてはいけない。人にやらせるのではなく、
自分でやらなければ、論ずる資格なし。勇敢なこの男に感動した!!!!
稀に見るその乾いた映像美おすすめ度
★★★★☆
日本が世界に誇る撮影監督宮川一夫さんのカメラがとにかく息を呑むような美しさ。ちょっと信じられないくらいに冴え渡っています。 雷蔵は勿論、長門裕之、三国連太郎、船越英二、岸田今日子、宮口精二、あげくは中村鴈治郎に杉村春子などなど、もはやこれ以上は望めないというくらいの大物俳優たちによる怒涛の競演です。 しかもこれほどアクの強い俳優さん達が、決してお互いのよさを打ち消すことなくさりげなく自己主張しているところに監督の確かな力量が伺えます。これがデビューの藤村志保さんも、決して美人とはいえないものの、かえってその普通の人っぽさが作品に奥行きを与えるのに大きく貢献していると思います。ただ、この人の声だけは、やっぱりデビュー当時から印象的だったんですね。
しかし市川監督は、(周知のことですが)どんな感動的な題材を扱っても、決してむやみに観客に涙を流させる、というような演出をどうもなぜか意図的に避けるタイプの人のようです。例外は"ビルマの竪琴"くらい。そのため、どうも痒いところにいまいち手が届かない、と感じる観客も多いのでは? この作品も、監督の世界にある程度通じている人でないと満足はし難いかもしれません。 でもジャケットも超シブイし、豪華ブックレットつきで、この値段の値打ちは間違いなくあります。
一説によると、松本幸四郎主演でこの作品の前に製作されたテレビ版"破戒"のほうがもっとすごかったらしいです。ぜひ見てみたい。