これまでの作品はソ連、アイルランド、コロンビアと各々1対1の構図でしたが、シリーズ第5作は中東を発端により複雑にスケールアップ。前作と違いJackもサボらずに(?)のっけから出ずっぱりです。
今回ユニークなのは、Jackの敵が外国やその不届きな輩のみならず、むしろ危機管理能力に欠ける大統領や野心と嫉妬の強いN.S.A.(国家安全保障担当)等上位の序列にある身内である点でしょう。その醜いいさかい故にCathyとの家庭不和まで起こるという、作者にとってはシリーズ始まって以来の人間臭いテーマを盛り込みました。この結果、クライマックスに掛けて用意されたこれまでにない大きな仕掛けと見せ場が一層目覚しい効果を挙げています。米ソ両国首脳のホットラインに乱入し、果ては自国の大統領に異を申し立てるなど、まるで『合衆国崩壊』での展開を視野に入れたかのようです。
“Patriot Games”の初々しさもよかったですが、本作の悩めるRyanもいいですね。まだ全部読んでいませんが、シリーズ最高傑作と予感しました。尚、ソ連人内通者のコードネーム「武蔵」を“Mushashi”と表記しており(イスラムか!? by タカ&トシ風)、軍事に関して徹底的に拘る作者はその他のことには相変わらず徹底的にいい加減です。
「愚か者の論理」か、「猜疑心の連鎖」おすすめ度
★★★★☆
この作品は映画にもされたけどは、トムクライシーものには珍しく、小説も、
良くできた映画の方も、意外に意外に人気が出ず、不思議に思った。
確かに、この小説はのプロットは相当難解なところがあったが、終盤のクライ
マックスの迫力は、とにかくもう本を手放させなくなる(その意味で、これは
「上」のレビューだけど、絶対に「下」まで行って欲しいと思うんですね)。
この作品は、核の恐怖、と言うより、人間の猜疑心の連鎖が超大国の間で起る
ことの怖さとてもうまく描いていると思う。
ただ、原作の題名(「恐怖の総和」)も、映画の邦題(まんまの、「トータル・
フィアーズ」も、微妙になんのことかわからない、と言うところがちょっと一般
受けしなかったのか。
僕は、これは「愚か者の論理」か、「猜疑心の連鎖」の感じかな、と思います。
とにかく、そのちょっと取っつきにくい邦題にかかわらず、この作品はポリティ
カルサスペンス、ウォーゲーム、近未来サペンス。。。様々な方向から一級の娯
楽性を持ちながら、今の我々の危ういパワーバランスの世界が、余すことなく描
かれる、これはおすすめの作品です。
ちょっと題名のことで、☆一個減らしています。
壮大な隠喩おすすめ度
★★★★★
私は本書を「クレムリンの枢機卿」と共に著者の代表作であると確信している。本業の傍ら執筆に9年を要したという‘潜水艦’から既に類希な感性が発揮され、政治・軍事を軸に展開された著者の世界は「クレムリン」に至り‘小説’として頂点に達し、更に膨大で綿密な本書の内容は、著者が‘執念’の結晶と化したことを伝える。
そして、題の「恐怖」は核やテロのことではない。著者は本書で「核の危機」を隠喩としてその緊張の「総和」、即ち結果を示唆することで、疑心暗鬼に満ちた我々人間の日常の内面に警鐘を鳴らす。当時の著者が単なる「軍事」でも「テクノ」でもなく‘作家’であったことの所以であるのだが、作風をすっかり変えてしまった最近の娯楽作しか知らない人には、是非触れてほしい著者の真骨頂である。
降参ですおすすめ度
★★★★★
ある日、ひょんなことからトム・クランシーに出会いました。もともとショーン・コネリーのファンだった私は「レッドオクトーバーを追え」の映画ポスターを見て、映画見る前に原作を読んでみようと思い・・・それ以来完全にはまってしまいました。
この本は俗に言う「ジャック・ライアン・シリーズ」といわれるもので、最初はCIA分析官だった人が、しまいには合衆国大統領になってしまうという壮大なシリーズ(んなことあるわけないよと思うでしょうが、その就任の仕方はドラマティック)。
なかでもこの作品は核テロリズムと中東和平の問題を取り扱っている重厚な読み応えのある小説です。テロリストが原爆を作る場面と中東和平条約調印という場面を交互に同時進行させて緊迫感を演出しつつ、その詳細で緻密な原爆製作過程の描写は圧巻です。また、原爆が爆発する瞬間の1秒間のプロセスを描いた「スリーシェイク」章は、あたかも装置の中を自分が電流になって爆発過程をたどっている錯覚に落ちいるほどです。
ただ単に「テクノスリラー」とだけででは片付けられない偉大な作家です。
ほかに、「日米開戦」「合衆国崩壊」「大戦勃発」もお勧めです。