縛り縛られる日本的SM世界 しかしそこから紡ぎ出される男女の本来の魂とは(谷ナオミと団鬼六に敬服) おすすめ度 ★★★★☆
ちょっとしたきっかけから『黒薔薇昇天』を見て谷ナオミの魅力に圧倒されました。しかし小沼勝監督作品も団鬼六の原作世界も見ていないからこれから研鑽を積んで行かなくては、と変に生真面目に考えてこの作品を手にしました。まあジャケットの彼女の姿がいかにもだったし色っぽかったですしね。没落士族の箱入り娘をセックス奴隷にして陵辱する成り上がり地主、彼女にそこはかとない思慕を寄せる奉公人、苛め心満載で彼女を責める地主の妹…。かつて子ども心に日本のSM映画ってこんな感じなのかなあと思っていたものがそのままだったので懐かしい感じがしました。同時代、角川映画の金田一耕助もののテイストに近いのでしょうか。失われた陰湿で濃密な旧家の人間関係がそこにあります。
そもそも縄で縛り上げるという行為は農耕民である日本独特のもので、西欧ならボンデージ=「革」になります。貴婦人を金と性の力で思うままに、というのは階級が明確であったかつての封建日本ならではで、1億総中流化が進んだ60年代以後はノスタルジーの対象です。そしてフリーセックス革命と大手映画会社の斜陽が重ならなければロマンポルノも成立し得なかった訳で、谷ナオミのSM映画は実に稀有な条件でありながら必然的に生まれてきた様です。ノーブルな容姿と今現在でも十分通用するグラマラスでいやらしい体つき。そして自らの内なる情欲に開眼するその抜群の演技力。伝説となったのも当然と言えましょう。団鬼六は女性を被虐的に描いているように見えて、その実彼女たちの秘めた生命の魂を讃えている様です(そして男達のちっぽけさ、哀れさも)。過去の遺物ではありません。新しい価値発見をもって再評価されるべき、日本の裏の精神文化の痕跡です。
〈追伸〉高木均がムーミンパパの声で演じてたら嫌だなあ、とおっかなびっくりで見ていたのですが杞憂でした。歪んだ情欲を持つ因業大家ぶりを発揮してかなりの熱演でしたよ。
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