1) 最近のフィギュアスケートブームを当て込んだ書籍・DVDには、あわてて作ったためか、競技に対する理解と愛情や選手に対する敬意のあまり感じられない内容の薄い商品が散見されます。しかし本書は、非常に優れた企画と構成でそれらと一線を画しています。美しい写真も満載です。取材に大変な労力がかかったと思います。偉業を成し遂げた荒川さんとNHKのスタッフに心から敬意を表します。
テレビよりこちらの本のほうが良いですおすすめ度
★★★★☆
改編も経て2度放送された番組を文字化したものですが
テレビよりもこちらの本が一番良い内容になっていると思います。
「NHKスペシャル・レベル4への挑戦」というタイトルで最初に放送されたときは
何だか「今のルールは荒川選手に不利に働き、やりたい演技は封じられ、
レベルを稼ぐために意味のない・やりたくもないバランスやポーズを取ることが求められていることに抵抗を感じ葛藤している」
かのような印象ばかりが強調されすぎている気がしました。
トリノ五輪の直後に「金メダルへの道」というタイトルで再編・再放送されたときは
五輪の演技までの取り組みがもうすこし具体的に伝えられていましたが、
この本を読んでしまうと
やはり金メダル決定で急遽放送という時間的制約もあってテレビの中では伝え切れていない部分が多くあったと思います。
本書は何から何まで美談として賞賛しまくる訳でもなく、
例えばエレメンツのレベルが上がる特徴には相応の難しさがあり
その技術を習得し自分のものとして納得いく演技をすることは
世界の頂点を極めた荒川選手にとっても容易いことではなかったということ、
この壁を乗り越えるための取り組みの様子、実行したことの一連の経緯
そういったことをこの本で一番詳しく知ることが出来ました。
テレビでは出てこなかったことが結構書いてあります。
手に取ったときは最近の多い分厚い紙と大きな活字で読む分量が少ない本だなあと思いましたが
読みやすくてなかなか良い本だと思いました。
ひとつだけ、どうしても気にいらないのはソルトレイク五輪の不正疑惑騒動について
「審判の採点で不正が行われた」と既成事実化してしまっていることです(この件の真相は「不明」なままです)。
これはとても危険なことだと思います。
それから些細なことなのですが、スルツカヤ選手はソルトレイク五輪の演技で転倒していません(クワン選手との間違いでしょう)。
偉大な先駆者としての道
おすすめ度 ★★★★★
「日本のすべてのスケーターに「荒川静香が行ってよかった」と思ってもらえる
ぐらいの演技をしよう。自分のためだけでなく、ここまで戦ってきたすべての
選手の気持をもって、トリノへ行くんだ」
NHK取材班が、荒川さんが不調のときも好調のときでも常に変わらず「あなたを
信じます」という態度で取材し続けたのも、タラソワ、モロゾフ他の一流コーチ
たちが渾身の力で彼女を教えたのも、荒川静香自身のまっすぐさ、懸命さ、
清らかさを信じていたからだと思います。
一読、人生の達人の凄みある言葉を知ったときのような、無条件で尊敬できる
偉大なスケーターだと本当に感動しました。
美しい写真、的確な文章、巻末のインタビューも含めて素晴しいしあがりの
本です。こういう底力を出してくれるから、こうやってスポーツへの愛を
示してくれるから、わたしはNHKに受信料を払い続けます。
荒川さんは死ぬまでスケートを続けると断言しています。
今、スケートを世界で一番愛する女性からの素晴しい贈り物です。
自分の中で本書は今年のナンバーワンになりました。