この本は「人類が消えたら世界はどうなるのか」という思考実験を試みることにより、人類が地球環境に与えている数々の影響について深く考察することに成功した面白い本である。
昨今、環境問題が政治経済上の大きな議題となっているが、問題が複雑すぎてとらえようがないと思っている人も多いだろう(私もそうだった)。本書はこの問題を「人類が明日、全員消滅する」と仮定することにより(全員消滅する理由については深く追求していない)、単純化することに成功している。
題名からも分かるように直接環境問題に焦点を当てているわけではなく、あくまで「明日人類が消えた」場合に世界がどう変わっていき、最終的に人類の痕跡がいつ頃消えるかについて考察している。「どうすべきか」について語ってないところが、逆に多くの読者の支持を集めている理由になっているのではないかと思う。
筆者はミネソタ生まれのアメリカ人である。アメリカ人にありがちな価値観の押しつけやキリスト教至上主義的なところも見られず客観的に事象をとらえていることにも好感を持てた。
人類の痕跡おすすめ度
★★★★★
この壮大な思考実験は、当然のことながらある強烈な問いかけを投げかけている。
つまり「人類は地球にとって害悪でしかないのではないか」という問いだ。
この高度に脳を発達させた哺乳類が、母である地球に対して行ってきたふるまいは決して褒められたものではないだろう。
1907年にレオ・ベークランドが成功した完全人工合成樹脂「ベークライト」の合成はその後人類が消滅しようがしまいが関係なく、
プラスチックというこの厄介な物質とすべての生物種が今後何千年何万年と付き合わなくてはならないことの始まりでもあった。
プラスチックは現実的な時間枠のなかでは生分解されず「細かく砕かれる」だけ。
どんどん小さくなって、動物プランクトンですらプラスチックを口にすることになる。
食物連鎖に完全に組み込まれていく。それでも分解はされない。
これまで人類が製造してきたプラスチックは燃えて灰にしたほんのわずかなものを除けば、ほぼ全てがある大きさで存在しているのだという。
プラスチックですらそうなのだ。では、大量の放射線を吐き出し続ける世界の441箇所の原子力発電所は?
・・・というような耳の痛いシミュレーションが続く。
とは言え記述のメインは、未来ではなく過去だ。
人類が成したことを検証することによって初めて人類なきあとの世界が想像できる。
ハードSFはすべてそうだが、単なるSFではなく科学的アプローチに重点が置かれた本だ。
人類が消えたあと、いや、地球すらも消えたあとの何十億年後の世界において、
それでもいつまでも残る人類の痕跡は何か。
その答えとその理由のくだりが個人的にお気に入りの箇所。
それは読んでのお楽しみ、ということにしておきます。
面白い本。固い本ではありますが、オススメです。
http://ekojin.com/
立ち位置に注意
おすすめ度 ★★★☆☆
人類と環境との関わりについて述べた書ですが、著者の立ち位置について注意が必要です。
基本的には人類文明により地球環境は歪められているというスタンスですから、
著者の考えでは、現在の地球はCO2排出による温暖化が進んでおり、各種化学物質で汚染されていることになります。
今やその毒性が疑問視されている、環境ホルモンやダイオキシンが槍玉に上がっているくらいですから、押して図るべしです。
中立的ではないという前提で読み進めると、それなりに楽しめる本ではあります。