二の腕の細い女は、おすすめ度
★★★★★
今見返してみれば「1998時代」「2002遺言」とシリーズのクライマックスへ向かう過渡期的な作品でったことは確か、他のスペシャル編に比べても盛り上がりの欠ける一編であることもまた確かである、にもかかわらず個人的にはシリーズ中でもっとも愛着があるのはエピソードの一つが個人的な追憶と重なるからだけではなく、やはり宮沢りえの魅力が最高に活かされているからだとおもう、加えてシリーズに顕著なまことに惨めなシーンが今回は描かれていないからであることにも気付いた、本作は全体のトーンがとても明るい、スキャンダル後の90年台前半に少々くすぶっていた宮沢りえを女優として再生させた作品とも評価できるでしょう、
前編の最後、蛍が純のアパートに現れてから夜行列車に乗り込むまで、特に新得駅前に駐車した車内における純と蛍のシーンはシリーズ中で最高に満ち足りた気分にさせてくれる、吉岡秀隆と中島朋子、この二人の役者でなければ絶対にかもし出せない絵もいわれぬ情緒が絶妙の状況(駆け落ちする妹を送る兄)で描写されているとおもう、個人的には「駅」の高倉健と倍賞智恵子の居酒屋シーンに匹敵する名場面、
妹の駆け落ち相手に対する苛立ちを「ぶん殴ってやりたいな」と口にする純に対して蛍は「負けちゃうわよ」とたった一言返す、愛するものへの全幅の信頼と依存をワン・カットで表現したこの場面こそシリーズ最高の名場面ともいえるし、女優中島朋子畢生の名演技であるとも思う、
新しい恋愛に明るく弾むシュウに対して、妻帯者と駆け落ちする蛍のやつれ具合、とりわけ本作で初めて画面に蛍が登場する純のアパート前の蛍の姿、を描いた本作はメロドラマとしても実に秀逸なものだとおもう、駆け落ち相手と正吉の彼女シンディが存在が暗示されるだけで実際に画面に登場しないのも実に心憎い演出だとおもう(小津映画・秋刀魚の味などで主人公の結婚相手が姿を見せないことを思い出します)、
続く2作品への布石として重要なのが純と正吉の友情が見る側の想像を超えて分かち難いものであることを正面から描いたこと、
蛍が駆け落ちした落石(おちいし)の冬の海の荒々しさは富良野岳の量感のある安定と対極にある不安定さの描写として素晴らしいとおもいます、富良野に住み安心して暮らすことと真逆を選んだ蛍という意味を暗示しているわけです、
宮沢りえの存在感おすすめ度
★★★★★
宮沢りえの存在感には驚いた。彼女の魅力を存分に描いている。誰もが通過するだろう、過去へのとらわれを脱却しようとする成長過程が描かれている。万人に共感を与える、ストリーだ。正吉役、棟梁役の役者が、これまた、筋を通すよい役割を果たしており、迷える主人公純を支えている。
心がうずくおすすめ度
★★★★★
五郎が蛍に向かって「いつでも富良野に帰って来るんだぞ」と叫ぶ有名なシーン、蛍ちゃんの、「不倫」に対する抑えていた感情がどっと溢れる演技と無条件に子供を愛し受け入れる五郎さんの姿には何度見ても感情移入させられ涙が出ます。親子の関係の間に築かれるものは何ものにも代えがたいのだと改めて痛感しました。
もどかしさおすすめ度
★★★★☆
この作品はれいちゃんの結婚が印象的です。結婚式場まで行ったのに影からこっそり見ている純がもどかしいです。お互いにまだ好きなのに未熟すぎて傷つけあうことしかできない2人がもどかしいです。小崎豊の歌が出会ったころの無邪気な2人を思い出せて悲しかったです。純はいろいろな女性と出会っていきますが、私はやっぱりれいちゃんのことが一番好きだったのではないかと感じました。
2大シーンで決まり-シリーズトップ作品-
おすすめ度 ★★★★★
(1) れいちゃんの結婚。純のコンプレックスがもどかしい。大人へのひとつの大きな階段を上りきれずに逃してしまうチャンスが惜しい。誰にもある青春の未熟さ故の悔いを思い起こさせる。
(2) 蛍と五郎の根室での別れ。このシリーズすべての中で、私が最も印象に残る(泣ける)シーンがここ。「蛍!!いつでも富良野に帰って来るんだぞ」。親自身の世間体を気にして子供に注意する親と違い、本当に、親の子供への深い愛があるからこその会話と言葉で締めくくられている。蛍のこの後の足取りの力強いこと。子供にとって親は最強の援軍と再認識させられる。
概要
富良野の大地で自力で暮らす黒板五郎と、その2人の子供たち、そして彼らを取り巻く人々の生活と成長を描くドラマシリーズのスペシャル版第6作。北海道の大自然を映像として美しく切り取ることもみどころであるためか、本作よりハイビジョンによる撮影がなされており、テレビ放映版よりも横長のワイド画面が楽しめる。
純の新たな恋人としてシュウが登場。彼女の過去を知った純の葛藤。そしてしばらく富良野に戻らない蛍は、妻子ある男と共に行方をくらましていた。事情を知りつつも2人を励まし、優しく背中を押す五郎。さりげなく示される正吉の純に対しての友情や、れいとの物語の終えんなど、これまでの積み重ねによってこその感動が味わえる。秘密暴きに怒るのがアイコであるのも、キャスティングを考えると実に説得力を感じさせる。(田中 元)